2001年10月17日

東京都知事石原慎太郎様
東京都環境局局長中野英則様

日の出の森・水・命の会
代表 中西四七生

要 請 書

日の出処分場からの焼却灰飛散による周辺汚染の実態報告および要請


の文書による要請内容について、日の出の森・水・命の会代表中西四七生に対し、2001年11月31日までに回答するよう、要請します。


■日の出処分場からの焼却灰飛散による周辺汚染の実態

 1984年に開場された日の出町谷戸沢処分場は全国の内陸式管理型処分場のモデルとして出発している。したがってここで起こっている汚染が処分場の構造的な問題であるならば全国の処分場の問題に遅かれ早かれ波及することになる。日の出の処分場の問題は、これまでに日本環境学会を始め多くの専門家のかたがたの調査分析によりすでに地下水汚染が構造的な問題として指摘されてきた。すなわち処分場に降った雨水が、ダイオキシンや重金属類などのあらゆる有害物質が含まれたごみの中を通り抜け、浸出した水が遮水シートの破損により地下水を汚染していることが処分場周辺の水質や地質調査により明らかにされてきた。この地下水汚染がこれまで処分場の中心的な問題であった。しかしその後処分場近隣の地域にガン死の多発がきわだちはじめ、これまでの地下水汚染では説明がつかない新たな問題がもちあがった。

・調査の発端

ガン死の多発した地域は谷戸沢処分場の南西側に位置する沢沿いの百戸ほどの集落である。もともと里山を抱えたこの地域はまさしく桃源郷という言葉が似合っていた。ここで行われる葬儀にしても、その多くが天寿をまっとうしたお年寄りものであったと聞かされていた。しかしここ最近は必ずしもそのようなものでなく若い人やガンで亡くなるケースが目立ち始めたと地域の人々のうわさになり始めていた。私たちはとりあえず地域の人たちからの聞き取りでガンの死亡率を調べたところ、日の出町の中でも飛びぬけて、さらには全国のがん死亡率の4倍を超えていた。

処分場の埋め立ては周囲より低い谷底で行われ、その日のうちに覆土されるということでこれまで焼却灰が周辺に飛散することなどを心配したことがなかった。事実日の出の二つ目の処分場の建設のための環境アセスメントの予測にも大気汚染の項目では建設工事に伴う土砂や埋め立て後の覆土の土砂の飛散を予測はしているものの焼却灰の飛散は予測されていなかった。

しかし

1. 焼却灰は非常に細かい微粒子(10ミクロン以下がほとんど)で、ひとたび舞い上がると日常経験する物体が重力にしたがって落下するような振る舞いではなく、むしろ気体のように周辺の気流にしたがって浮遊するものであること。

2. また山間部には局地的に地形や日射の有無による熱や放射冷却によっておこる上昇あるいは下降する風が発生すること。

3. また夜間の放射冷却により汚染物質が冷気により濃縮されて地上付近に停滞すること。

などから谷底に埋めたてられる焼却灰も谷を上り周辺や広域に飛散して大気汚染を引き起こすであろう事を予測し、ガン死の多発との何らかの関連を推測した。

 そこで私たちはこの仮説を実証するためにこの2年間気象調査を主とした環境調査を試みた。日の出と同じような処分場は全国で3、441ヶ所に及ぶとされている(厚生省(現在の厚生労働省)に内陸式管理型最終処分場の設置の許可および届けいれがされた数。平成8年年度末現在)。したがって処分場の地下水汚染や大気汚染が構造的な欠陥によるものであることを考えると今や日本全土で廃棄物処分場による焼却灰の地下水および大気汚染が蔓延していることになり、さらに将来ますます汚染が顕著になることが予測される。

・調査始まる

そこで処分場が発生源となっている焼却灰の大気汚染について私たち住民による調査の概要を報告する。処分場からの焼却灰飛散のメカニズムについては後で紹介する別紙資料「たまあじさいは見ていた」を参照していただきたい。

今回の調査はこのメカニズムを実証し、汚染の実態を検証するためのものである。そしてこの調査は処分場周辺の住民が自分達の暮らしている環境が処分場によってどのような影響をこうむっているかを検証しようという自発的な思いから出発している。

1998年春ごろより、気象や環境問題の専門家、環境総合研究所所長の青山貞一氏、気象庁の中田隆一氏、東北大学名誉教授の近藤純正氏の助言を受けながら活動の内容などの検討をする準備を始めた。1999年3月に会を発足させ会員募集と活動を開始した。活動期間を2年間と限定し、前半の1年間は観測調査活動を中心に、後半の1年間は観測・調査の分析とまとめの活動に費やした。

・調査の内容 

観測・調査活動は、

@ 処分場周辺の風の動き(局地風)の観測や、それとの関係で広い範囲での風の動き(一般風)の気象調査

A 処分場類似地形を利用した熱や地形による風の流れのシミュレーションや風洞による微粒子の挙動実験、風船を使っての気流調査

B 処分場から飛散・放出している物質やガスの採取・分析

C 周辺への具体的な影響としての周辺および横浜市や町田市などの日の出町以外の処分場の植物の観察・調査

D 調査活動をより科学的視点で取り組むため気象関係などの専門家による学習・講演会の開催などであった。

調査で明らかになったこと

これらの調査・分析を通して検証できたこと、新たな事実がわかったことは、

@ 焼却灰の場外飛散のメカニズムおよび季節や地形によって飛散する方向および地域、

A 飛散した焼却灰の周辺地域での夜間に濃縮するメカニズムおよび汚染が停滞しやすい地形や気象条件、

B 霧や雨による河川の汚染。飛散した焼却灰が夜間に周辺の谷に霧が発生する。夜間空気が冷えて重くなり汚染物質を濃縮して谷に下りてくるとまだ暖かい川の水に出会うと水面が急に蒸発してできる蒸発霧や冷たい空気が水面のあたたかい湿った空気と混じってできる混合霧が発生するこれらを総称して谷霧というがいずれにしても焼却灰が核になって細かい霧の水滴ができる。この霧が秒速5cmで谷川にゆっくりではあるが確実に落下し河川を汚染する。また上空に舞い上がった焼却灰が核になり雨として川に流れ込み(レインアウトと呼ばれている。)あるいは空気中に浮かんでいる焼却灰が雨滴に取り込まれ(ウォシュアウトと呼ばれている。)河川に流れ込みこれを汚染する。これは日の出町の行った調査で町内河川から高濃度のダイオキシンが検出されたこととよく符合している。

C 飛散した焼却灰は日中暖められた谷風によって谷を上りあがるがこれが東京湾から吹く都心からのオゾンなどが混じった広域の海風に合流して一般風の向きにより、碓氷峠を越えて上田、長野、日光、大月方面などに達し広域に汚染している。

D 処分場周辺で捕獲した粒子の中から焼却灰が多数確認できた。北里大学の二重作教授に電子顕微鏡を使って微粒子の元素分析をお願いした結果、微粒子の成分から焼却灰であることが判明したものが多数存在した。

E 処分場周辺の植物に葉の変形、葉の脱色葉の先端の枯死、葉に多くの穴があく現象、葉のカビの多発、季節外れの落葉、芽先の壊死、植生の弱りなどの異変が見られた。これらの現象は通常の山地、人家の近く、街中でも時々見られるもので処分場周辺に特有な物ではない。しかし、 1.気象的あるいは地形的な位置から処分場からの影響が著しいと思われる地域にこのような異変をもった植物が面的に多数存在したこと。 2.他の処分場周辺にも共通した異変が見られたことから処分場の影響による植物異変と判断した。

要  請

 この活動を通じて明らかになったことを踏まえて、私たちは東京都知事および東京都環境保全局に対して廃棄物の処理および清掃に関する法8条に基づき下記の要請をする。

(1) 処分組合に対して、現在の埋立作業を見直し、焼却灰の取り扱いについては、大気汚染法のアスベストと同程度の密閉保管をすることを指導、及びその実行を監督すること。

(2) 地域住民を交えて処分場周辺の環境調査をすること。

(3) 処分場周辺の住民の疫学調査と健康対策を確立すること。

(4) 巨大な消費都市のごみ最終処分場を過疎地や水源地に押し付ける社会的不公平の是正と環境政策を見直すこと。

(5) 生活の中で使われている化学物質をコントロールし、無害化の方策を策定すること。

(6) 出たごみを処分する後追いの施設整備型の清掃事業を根本的に見直すこと。

(7) 処分組合に対して情報公開条例の即時制定を指導すること。